『生のみ生のままで』(後編) 綿矢りさ(著) (『すばる』2019年3月号に掲載、集英社)

 

女同士の恋愛を描いた、綿矢りささんの長編小説『生のみ生のままで』の後編です。

主人公である逢衣とその恋人の彩夏は試練の時を迎え、離れ離れになりますが、7年という歳月を経て再会し、関係を取り戻していきます。

同性同士のカップルに対する世間の偏見が根深い問題としてある中で、純粋にお互いを思い合っている二人の精神世界は、強く揺るぎのないものに思えました。

関係がすれ違っている時でさえも互いを思いやる感覚は単純に美しく、魂レベルでの絆がそこにある事を描いていてジンとくるものがあります。

決して特殊ではなく、今の時代を生きるある一組の若者同士の純愛を描いた世界だったのだと、読み終えてそう思いました。

恋愛というものがより深く純化すると、人生や家族を巻き込んでいくものになるということもごく普通の流れで、彼女たちはたまたま同性同士だったがために、そこに苦難が横たわる。

それを当たり前に受け入れていくしかないのだという悟りに近い感覚があったようにも思いました。