第55回文藝賞受賞作品

『いつか深い穴に落ちるまで』

山野辺太郎(著)

(河出書房新社)

 

まず、本作は日上秀之さんの『はんぷくするもの』と同時に文藝賞を受賞となった作品です。

選考委員の選評を読む限りでは、非常に評価が高かった印象でした。一概に新人文学賞受賞作品と言っても、選考委員の反応は様々です。ただ受賞するだけでなくて、そこに選考委員の賞賛が加わるというのはかなり重要なことだと言えるはずです。なんといっても、プロが読んで面白いと思った作品、なんですから。本作は、そういう作品であるということです。

実際読んでみて、文章や内容が分かりやすく丁寧で、読みやすかったと思います。プロだけでなく、一般の読者の受けも良いだろうな、という印象がありました。なんといっても、発想がいい。

地球を串で突き刺すみたいに穴を掘って貫通させ、日本とブラジルを一直線に往来できる通路をつくってしまおう、という普通に考えたら有り得ないと思える構想が、国も関わる秘密裏の事業として採用されて、粛々と進んでいくのです。

その進捗状況や事業の歴史を記録することだけが仕事として割り当てられた男がいて、その男の残した一連の記録。その記録そのものが小説になっているのですが、実に上手いことに、記録であると同時に、それを残した男の半生を描く物語にもなっているのです。

事業自体が秘密裏にやってることなので、決して日の出を見ることもない記事を、ただただ男は書いているのですが、ブラジルまで通じる穴の掘削を、常に間近で見守っているひとりの男の人生というのは、実に奇妙だし興味深いものです。読み手であるこちら側では、そんな彼の様子をずっと見守っているわけですが、いつの間にか男と同じように、穴が地球を貫通する日を夢見る感覚になっていました。ラストは良かった。