『図書室』

岸政彦(著)

(『新潮』2018年12月号に掲載)

 

岸政彦さんと言えば、2016年に『新潮』に発表した『ビニール傘』が芥川賞候補になり、注目されました。大学の教授であり、社会学者でもあります。

『ビニール傘』では、大阪を舞台に貧しさや侘しさを抱えた人々の日常を描いていて、淡々とした文章の中にも、心に響いてくる繊細なものを感じました。

本作では、独身の50代女性の視点から過去を振り返り、子供時代に通った公民館の中にある図書室で出逢った少年との思い出が綴られます。

もうそこにいない記憶の中の人物とのやり取りや出来事の一つ一つが、鮮明に描かれれば描かれるほどに、滲んでくる言いようのない郷愁に似た寂しさがあります。

少年との関係は、友情と幼い恋心とが淡く混ざりあったもので、爽やかでどこか切ない。

50代になった女性の視点から振り返ってみても、その当時の幼さや純真さが新鮮な輝き方をしていて、そこに人生の哀愁が仄かに香ってくる感じも、胸にじんときました。