第120回芥川賞受賞作品

『日蝕』

平野啓一郎(著)

(新潮社)

 

本作品は、大学在学中に執筆されたもので、文芸雑誌『新潮』(1998年)に掲載され、その後芥川賞を受賞しました。

時は15世紀、フランス。ある書籍を求めて旅立った神学層である青年が、リヨン司教の勧めで立ち寄った村で体験することになる、神秘的な出来事の一連が描かれています。

あえて古典的に書かれた文体は、はじめは読みにくく疲れを感じるものの、少しすると慣れてきて難しい漢字の読みが気にならなくなります。

不思議なのですが、その頃には文体そのものの持つ近寄り難さよりも、物語としての面白さが優ってきて、小説が確かな質感として至近に迫ってくる印象がありました。

キリスト教の異端審問に纏わる話が、錬金術師や賢者の石、ギリシャ神話に登場する両性具有の神を彷彿とさせる不思議な生命体なども登場し、小説の最高潮である焚刑の場面では、この世の真実と嘘、正義と悪、男と女、陽と陰、あらゆる矛盾が曝け出され、撹拌し、融合していくというダイナミックな躍動が立ち現れてきて、じつに物語的で見事な構成だったと思います。

矛盾に満ちた世界(宇宙)そのものと主人公が対峙(或いは融合)することによって、読者であるこちらも、世界(宇宙)の裂け目から何か得体の知れないものを垣間見たような、そんな心地すらありました。

読み終えてみて、この小説にはこれ以外の文体は有り得なかったようにも思います。