『裏山の凄い猿』   舞城王太郎(著)(『群像』2018年12月号に掲載)

 

昔話の「猿蟹合戦」のように猿と蟹が出てくる(ただし、悪者はどうも蟹の方みたいです)ちょっとおかしなお話です。

舞台になっているのは、西暁町という山と田んぼばかりの田舎町で、語り手(「俺」)はそこに住んでいる26歳の独身青年です。

言葉による理屈を組み立てて正論ばかりいう「俺」は、同級生の友人から、「あんたは絶対結婚できんわ」と言われ、両親からもお前は遺伝的に恋愛できない性質なのだと告げられたことで、ショックを受けます。

それでも理屈や正論ばかりに囚われてしまいがちな「俺」の周りでは、人間の言葉を話す猿や蟹が出て来て、さらに40年前に行方不明になった少年が、少年の姿のままで現れたり……と、お伽噺と現実がごちゃ混ぜになった世界が展開していきます。

ちょっとミステリアスな現代版御伽草子……といったところでしょうか。

ただし、寓話そのものが記号化され、皮肉られていたような気がします。