群像 2018年 12 月号 [雑誌]

第160回芥川賞候補作品

『ニムロッド』

上田岳弘(著)

(『群像』2018年12月号掲載)

 

 

『太陽』新潮新人賞を受賞してデビューされた上田岳弘さんの中篇小説です。

過去には『惑星』『異郷の友人』という作品で、それぞれ芥川賞候補になっていますし、2015年には『私の恋人』三島由紀夫賞を受賞しています。

人類や世界(宇宙)そのものを超越的な視点で捉え続けている作家だという印象で、本作でも人類の営み全体を、作中に出てくるような塔の上から俯瞰しているような感覚があります。塔の上から俯瞰しながら、同時に俯瞰され続ける当事者としての感覚もあり、巨大な世界の広がりを意識させる小説だという気がします。

主人公はビットコインの創始者と同じ名前を(偶然にも?)持つ男で、データセンターを運営する会社に勤務していて、ある日、社長直々に仮想通貨の採掘業務を仰せつかります。

会社が運用しているサーバーを使って、ビットコインを掘り出すというのですが、そもそも仮想通貨というものの正確な概念すらよく把握できていなかった私にとっては、「コインの採掘」と聞いて、本当に金鉱をツルハシかなんかで掘って行く光景しか浮かばないのでした(作中にもそんなことが書いてましたが)。

「マイニング(「採掘」を英訳)」というのだそうですが、コンピューターの処理能力を使ってなされるその採掘業務の実態を読んでもなお、仮想通貨というものの実像を把握しきれない気がします。

そもそも、国家によってその価値を裏書きされ、存在を保証されている「通貨」というもの自体が、ビットコインに代表される仮想通貨と、本質的にはどんな違いがあるのでしょうか?

この小説に描かれているビットコインをはじめとする仮想通貨は、実に現代的で時事的なアイテムですが、人類の営みを大きく俯瞰して見た時、貨幣経済そのものを象徴するアイテムでもあったように思えます。

では、題名にもなっている「ニムロッド」を含む、”駄目な飛行機コレクション”は何を意味しているのでしょうか。

駄目な飛行機たちなのですから、要するに人類史上に存在した失敗作たちなのですが、そこには失敗を恐れずに進化に挑戦しようとした精神があり、それ故にこれらの失敗作である飛行機たちは、愛すべき対象物として描かれています。

私は、この作品を読んだ時に、上田さんの作品の『塔と重力』を思い出しました。この作品でいうところの「重力」に匹敵するものが、本作に登場してくる「駄目な飛行機」たちなのではないか、という気がします。愚かしさをひっくるめた、人間(あるいは生物全体)というものの本質ではないかと。

塔の頂上から世界を捉えながらも、「駄目な飛行機」に象徴される「人間らしさ」に共感を禁じえない感覚を持ち続ける人物。それが主人公の友人であるニムロッドであり、その彼に向けた温かい感覚が、この作品の底流にあったように思います。