共喰い (集英社文庫)

第146回芥川賞受賞作品

『共喰い』

田中慎弥(著)

(集英社)

 

 

本作は、平成23年度の下半期芥川賞を受賞した作品で、円城塔さんの『道化師の蝶』と同時受賞でした。

従来の小説の枠組みから大きくはみ出し前衛的である円城さんの作品とは対照的に、古典的とも言えるほどに伝統的な作風で、この二作が同時受賞なのも面白いところです。

海にほど近い汚水垂れ流しの川とその周辺で暮らす人々の様子は、薄汚く陰湿にデフォルメされていて、そこからは絵画的な印象を受けました。

暴力的な性行為に依存している父親と、その父親を憎みながらも自身の中に父親と同じ性癖があることを恐れる息子、そして暴力の被害者である二人の母と、やがてもう一人の被害者となる息子の恋人である少女。

血の繋がりが肉の繋がりとなり、家族や恋人同士の感情的な交わりもまた肉の繋がりと無縁ではなく、強烈な悪臭を放つ澱んだどぶ川の汚水のように纏わりついてくる性の感覚と密接に絡み合っています。それがさらに澱んだ気配で小説全体を重く支配していて、濃密に迫りくる力があります。

現代社会のリアルな感覚からは、どこか解き放たれたように遠くて、熱っぽい夢の世界のような小説だったように感じます。

「性」の生臭さを纏った「生」の実感そのものを、物語の形で書きなぐったような作品、そんな印象です。