海辺のカフカ 全2巻 完結セット (新潮文庫)

 

 

 

『海辺のカフカ』(上・下)

村上春樹(著)

(新潮社)

 

日本人でノーベル文学賞が期待されている作家、村上春樹さんのかなり有名な作品ではありますが、今ごろになって拝読してみたところです(私の好きな作家の名前が、こんなに堂々と作品名に入っているにもかかわず……)。

15歳の家出少年(田村カフカ)が四国を旅し、「甲村記念図書館」なる私立の図書館に辿り着いて、そこで運命的な人たちと巡り合い、世界や人生の意味について考えていく。

あらすじを振り返ってみると、そんなお話だったように思うのですが、そんな話では全くなかったような気もしてきます。

猫と会話ができるナカタなる人物もそうですが、登場人物がそれぞれに宿命的なメタファーとして記号配列されていたような印象があり、また作品に組み込まれている多くの事物が何らかのメタファーとして扱われていて、現実とそうではない世界の境界が曖昧です。

というよりも、私たちが疑いもなく現実だと思っている世界の見方がおかしいのかもしれない。現実だと思っていた方が、実は幻想かもしれないし、それほど確固たるものでもないのかもしれない。というようなことを考えさせてくる作品だったかと思います。

物語の展開そのものを味わうよりも、世界を見る視点の揺らぎを体感することこそが、この作品の醍醐味なのかな、とも。

つまり、世界の認識とか、有り様に対する見方や、それを受け入れながら生き続けるということの意味を問う小説だったのかと、そう解釈しました。

メタファーに関しては、以前に読んだ『騎士団長殺し』にも通じているし、その他の作品にも繋がっているテーマなのだろうと思います。他にも未読作品がたくさんあるので、折を見て少しずつ読み解いていこうかと考えています。