文學界2018年10月号

『鳥居』

石田千(著)

(『文學界』2018年10月号に掲載)

 

 

以前、『群像』(2017年11月号)に掲載されていた『母とユニクロ』を読んでから、だいぶ気になっていた作家さんなので、今回も期待して読みはじめました。

読みはじめてすぐに、どうも文章の意味や時系列が掴みにくい気がする(もしくは頭に入りにくい)と感じ、はてどうしてだろうと考えると、随所で主語が省かれているせいだと気づきました。

これにより独自のリズムが出来ていて、独特な文体になっていたように思います。

はまれば感情移入できて、より小説と距離を近くすることができるけれど、読者によっては逆の印象を持つ場合もあるかとも思いました。(ただ、文章のリズムに乗れるか乗れないかは、読み手側の心身の状態にもよると思うので、一読目では受け付けなくても、時間をおいて再読すれば、全く違った印象に変貌する可能性は十分にありますし、そういう作品ではないかな、と思います)。

私自身は、中盤にさしかかる辺りまでは、どうしても文体に馴染めなかったのですが、中盤以降の小説の熱気に呑み込まれるように、文体が気にならなくなっていきました。

作品は、主人公の女性(40代と思われる)が、恋人と三浦半島に出かけた小旅行での出来事が詳細に描かれていて、その傍ら、旅行の直前に死期が近いと告白された、元恋人との思い出などが交錯します。

旅先での祭りの描写には熱量があり(特に、獅子や神輿の宮入りの描写は)、妙なエロティシズムがのぞいていたように感じました。

題名にもなっている鳥居は、この世と神の世界を繋ぐ場所であり、祭りは、生者と死者、人間と神が狂乱的に混ざり合う不気味で美しい情景となり立ち現れます。

「生」と「死」という命の流れが、祭りの熱気の中に佇む女の思考と連なって、大きく渦巻き駆け抜けていく(あるいはうねり続ける)というような感覚がありました。

ミドル世代の女性の、等身大的な死生観がリアルに描かれていて、その生々しさに新鮮味を感じます。