ダイヤモンドダスト (文春文庫)

第100回芥川賞受賞作品

『ダイヤモンドダスト』

南木佳士(著)

(文藝春秋)

 

 

医師としての経験もあり、難民医療チームに加わってタイ・カンボジア国境に赴いたこともある作家、南木佳士さんの代表作の一つです。

軽井沢の別荘地を舞台に、病院の看護師として働く和夫を中心に物語は描かれています。

和夫は幼いころに母親を亡くし、父親と二人きりの生活を送ってきたのですが、母親の死をきっかけに医者になることを志し、成長しました。ところが高校三年生の夏に父親が倒れて右半身が不自由になると、彼は大学進学を諦めて地元の看護学校に進学を決め、看護師としての道を歩んでいくことになります。

その後、東京から避暑で訪れていた女性と知り合い結婚し子供が生まれますが、その妻も病気で亡くすことになります。看護師としての仕事上でも、人間の死と向き合うことの多い和夫という一人の素朴な男の眼差しを通して、また彼が見つめる「死」という現実を通して、人間の生きる姿が温かく描かれていると思いました。

そう、この小説には人間への温かい眼差しを感じるのです。

特に、鉄道会社に運転手として勤めていた和夫の父松吉と、戦争体験者でもあるアメリカ人の宣教師の男との言葉少ないながらの交流は、じんとくるものがあります。

松吉の提案で水車を造ろうとするくだりなども、好きな場面です。

軽井沢の自然描写もさることながら、人と人が関わり、そしてやがて分かれていく情景の中には、なんともしれず清廉な情緒があると感じました。

それは、あきらめとも、ありきたりな肯定とも違う、ごく自然に人生を受け入れている人間の、健気さとでもいうべきものでしょうか。素晴らしい一作であると思います。