されどわれらが日々ー (1964年)

『ロクタル管の話』

柴田翔(著)

(『されどわれらが日々』《文藝春秋》に所収)

 

 

本作品は、第44回の芥川賞候補作になった作品です。

朝鮮戦争の時代(1950~1953)。神田の小川町あたりから須田町あたり(現在の秋葉原であると思われます)でラジオ部品ばかり扱う露天商が並んだ露店街で、ロクタル管というガラス管を捜し求める少年の物語です。

ロクタル管というのは、ラジオの部品に使われている真空管の一種であるらしく、主人公の少年はラジオの魅力にとりつかれて夢中になっている中学生です。

今でいう「オタク」なのでしょうけれど、ロクタル管に対する並々ならぬ情熱は純粋でかわいらしく、機械工学になど興味のない私ですが、つい引き込まれて読んでしまいました。

中学生らしい幼い興奮とロクタル管への愛を内に秘めたあどけない少年が、どこか胡散臭さげな露店街の暗がりの奥へと入り込んでいく過程が絶妙に面白く、短い作品ですが読み応えのある内容でした。

芥川賞をとっていてもおかしくなかった作品ではないか、と思うのですが、この作品の後に同賞を受賞することになる『されどわれらが日々』は大ベストセラーになってますので、むしろ良かったのかもしれないと考えると、(本作が中々に素晴らしいので)ちょっと複雑な気持ちになります。