聖水 (文春文庫)

『信長の守護神』

青来有一(著)

(文藝春秋刊行の『聖水』に所収)

 

 

 

本作は、第121回芥川賞の候補作になった作品です。残念ながら受賞は逃しました(この回の芥川賞は、受賞該当作なしという結果でした)。

織田信長とその家臣たちを中心とした時代小説かと思って読み進めると、実は「信長の敵」というシュミレーションゲームから生まれた同名の映画作品の撮影に、エキストラとして参加した青年の話です。

青年の視点から映画に関わった人物(監督や助監督、信長やその家臣役の俳優たち、エキストラ仲間のコロク)など、けっこう多彩な人間が出てきて、シネマ仕立ての面白い展開になっていたかと思います。

展開の奇抜さが目立つ一方、元々ゲームという仮想空間から生み出された映画の撮影現場というやはり非日常的な空間の中で立ち動く人々の姿も、どこかキャラクター染みた陰影を醸していて、戯画的な印象だったように感じました。

戯画的なものというのは往々にして、人物や設定はデフォルメされ、キメの粗い造りになってしまうので、そうした点が評価の分かれ目になるのかとも思いました。