『ジェーデル日記』
四元康祐(著)
(『群像』2018年7月号に掲載)
前立腺癌の手術を受けた語り手(「僕」)が、術後療養とリハビリのためにシェーデルというクリニックに入院した時の様子を綴ったもの。
以前、やはり『群像』(二月号)に掲載されていた『奥の細道・前立腺』の続編のような内容だったかと思います。
詳細までリアルのなので、実体験を元に書かれているのかもしれません。
前作『奥の細道ーー』と同じく詩と散文が混じりあった独特な文体となっているのですが、ただ独特なだけでなく、非常に読み心地の面白い作品だったかと(前作共々)感じます。
散文にも、散文の合間に時折挿入されてくる詩にも、どこか飄々とした可笑しさと味わいがあって(これが果たしてどこからくるものなのか、説明しがたいのですが)、要するに文章そのものに魅力があるのです。
老人と呼ばれるにはまだ早すぎたとしても、決して若くもないであろう年代の語り手(「僕」)が、癌という自らの病気を媒介して「死」を意識しているという感触があります。
しかしながら、その口調が暗くなったり重く沈み込んだりということはなく、淡々とした妙な明るさがあります。
この作品の命ともいえる文章の味わいは、作者の分身とも言えるこの「語り手」(「僕」)の人間的な魅力やその死生観と切っても切り離せないところにあるようです。
なお作中では、旧日本軍の兵士たちが起こした悍ましい歴史的犯罪についても書かれていて、この事件の惨たらしさが、死のイメージと結びついているようにも感じました。
死を目前にした人間の心について書いた詩の断片が、頭に残ってしまいました。