早稲田文学増刊 女性号 (単行本)

『私はさみしかった』

藤野可織(著)

(『早稲田文学増刊 女性号』に掲載)

 

 

 

川上未映子さんが責任編集した、『早稲田文学増刊 女性号』は、面白い作品が多く掲載されています。

藤野可織さんの短篇『私はさみしかった』も、なかなか味わいのある、いい作品だったと思います。

語り手である「私」は、高校生なのですが、かつて小学生だったころ、”秋になるとさみしかった”ことを懐かしく呼び覚まします。高校生の今現在の彼女も、さみしさと呼べるものを抱いていますが、ただしかつてのさみしさとはどこか違います。

子供でもなく、大人にもなり切れない状態で、感情や性を持て余した少女の内面の屈折がよく描かれていると思いました。

言葉の表現にも、ぐっとくるところがあります。

特に、「濃い尿のなかをあえぎ泳いでるみたいな夕方」なんて、よくそんな表現が出てくるものだな、と感心してしまいました。ただ気を惹くというだけでなく、少女の内面の臨場感が滲んでいて、だからすごいと思うんです。

さみしいという感情が、若い肉体の中で屈折した精神と絡み合って、どうにもならない息苦しさを覚える、そんな臨場感に満ちた作品だったと感じます。