異人たちの館 (文春文庫)

『異人たちの館』

折原一(著)

(文春文庫)

 

 

本作は1993年に新潮社から単行本として刊行されていて、その後1996年に新潮文庫から、2002年に講談社文庫から、と続き、さらに月日を経て2016年に文春文庫からも文庫本として刊行されています。

ミステリーファンに長く愛されている作品だと言っても過言ではないのでしょう。

著者の作品は読んだことがなかったのですが、2018年の本屋大賞の『発掘部門』に挙げられていたので、手に取ってみました。

失踪した息子(小松原淳)の伝記を書いて欲しいという母親からの依頼で、ゴーストライターとして雇われた島崎は、取材を重ね資料を読み続け、かつて8歳で児童文学賞を受賞して天才少年と呼ばれた男の生涯に迫ります。

様々な人物の視点が交錯し、地の文の他に、新聞記事や取材した人物たちの一人称語り、取材や資料を元にまとめた年代順のレポート的な記述、小松原淳の創作した小説、誰が書いているのか分からない「モノローグ」と題される一人称による文……、などなど、とにかく複数の文体の違うテキストが登場してきます(余りにも錯綜しすぎていて、読者が忘れているであろうテキストのページを、カッコつきで補足するというラスト付近の気遣いは、妙に気に入り、笑ってしまいました)。

これだけ挿入物が多いと、読み手に混乱を起こさせそうなものですが、ストーリーの大筋として、一人の人物の伝記をまとめるという目的があるので、それに沿った自然な流れとして読めてしまいます。よく出来たドキュメンタリー映画を観ているような感覚で、読者は謎多き物語の深層へ引き込まれていく、というわけです。

実際、なかなか面白かったです。

失踪した人物と取材で彼を追いかけるライターが、どちらも小説を書く人間であるというところから、書く者と書かれる者の関係がねじれながら交錯してきて、読みながら、これはいったい誰の手によって書かれたものだろうか、という疑問が、さらなるミステリーの深みへと繋がっていきました。

謎が解けた後でも、なぜか重層的に絡まった様々な視点が、なおかつ不気味に「物語」という世界を構築し続けているという感覚があって、生き物みたいな小説だな、と感じています。

著者があとがきで振り返るように、昭和感溢れるアイテム多数や雰囲気なのも、私的には大変良かったと思うところです。