文芸 2018年 02 月号 [雑誌]

『TARO POWER MILO!!』

松波太郎(著)

(『文藝』2018年春号に掲載)

 

 

身体が小さくていじめられっ子だった主人公が、あるきっかけからミロを飲みはじめ、どんどん逞しくなっていく……という物語。

主人公である太郎(「わたし」)を、時間的に離れた場所(35歳になった現在)から客観的に描写していて、この二人の太郎の距離感が不思議で面白い。

ミロの商品名の由来になっているクロトンのミロン(古代オリンピックで活躍したレスリング選手)から、ミロを飲んでいる少年太郎と、それを振り返る現在の太郎が、時空を超越して繋がっているという、奇妙な構図があったと思う。

しかもミロを飲んでいる過去の太郎の意識は複数分裂し、互いに会話し合ったりしている。

身体と意識と記憶と時空、全てがこんがらがってしまうような、そんな奇妙な小説、そんな奇妙な世界への入り口だった気がする。