おまじない (単行本)

『おまじない』

西加奈子(著)

(筑摩書房)

 

 

 

直木賞作家の西加奈子さんが短篇集を出されたというので、読んでみました。二年ぶりの新作だそうです。

西加奈子さんの短篇集といえば、足が燃えている謎の男が登場してくる「炎上する君」が表題作として納められた短篇集の『炎上する君』(角川書店)を思い出します。確か2010年に発売された本だったと思うのですが、こちらを読んだ時、すごく魅了されたという記憶があります。

西加奈子さんといえば、直木賞を受賞した『サラバ!』や、宮崎あおいさんと向井理さん出演で映画化された『きいろいゾウ』2017年の本屋大賞で7位になった『i』など、長篇のイメージが強いと思うのですが、短篇も素晴らしいです。

西加奈子さんの文学的な本質に触れられるのは、むしろ短篇の方が濃厚ではないか、とさえ思います。

本作『おまじない』では、8篇の短篇が収録されていて、どれも「心に悩みを抱えた女の子」が「おじさん」に救われる、という内容になっています。

一つとして退屈なものはなく、新しい西加奈子さんの世界に連れて行ってくれる作品でした。

読んでいると共感できるものが多くて、どうして西加奈子という人は、こんなにも普段私が思っているようなことを、分かってくれているんだろう、と不思議に思えてしまいます。

人それぞれにコンプレックスやストレスの原因は違うはずなのに、どうしてかこの作品の中で出てくる主人公たちが抱いている鬱屈は、私のそれと似ている。それが不思議でならないのです。

しかも作品は、傷ついて醜くなってしまったものさえ、否定せずに受け入れてくれる。それは安易な慰めでもなく、同情でもなく、応援歌でもない。ただただ、そっと寄り添ってくれている、という感じ。

それが何よりも、心地いい。心が解き放たれていく感覚。

なんだか、読者であるこちらが、不思議な「おまじない」をかけられたような読了感でした。