すばる2018年3月号

『羽衣子』

木村紅美(著)

(『すばる』2018年3月号に掲載)

 

 

 

スーパーのレジ係として働く晃代は、冬になると町の川や湖にやってくる白鳥たちの気配を感じることが、楽しみだった。

そんな晃代は、勤務先のスーパーによく現れるようになった、後藤さん親子のことが気になりだす。

二十歳前後と思われる娘の様子から、彼女が白鳥の化身であると思いはじめたからだった。

『夢を泳ぐ少年』では、リアルな現実世界に河童が登場してくるという民話やおとぎ話のエッセンスを含んだ、不思議な内容になっていましたが、今回は白鳥です。

宮沢賢治の影響があるようです。

物語は、一人の女の狂気じみた妄想だとも読めるし、現代版のリアルお伽噺として読むことも、両方可能かと思います。

前者とすればホラーですが、後者とすれば、心温まる美しくも切ないお話。

一つの小説の中に潜む二面性(もしくは多面性)。これは、本来多面的にできている人間を描いた物語としては、非常に感度のいい作品だと思います。

白鳥たちが生きている世界が意外と野性味を帯びていて、それでいて人間の世界とはちがう静謐さを感じさせるところなど、惹かれる所は多かったです。