すばる2018年3月号

(短篇)

『風呂おけ』

『解決策』

ジャネット・フレイム(著)

/山崎暁子(訳)

(『すばる』2018年3月号に掲載)

 

 

ジャネット・フレイムという作家を知らなかったのですが、今回『すばる』の3月号に海外作家シリーズとして紹介されていたので、読むことが出来ました。二作品とも面白く読みました。

『風呂おけ』は、夫に先立たれて一人暮らしをしている老女のお話。

思うように体が動かなくなった老女の日常が描かれているのですが、ただならぬ暴力が潜んでいることに気付きます。

その暴力の正体は、ただの風呂おけであり、日常的に彼女を取り囲んでいる様々な”普通の”ものです。

老いて不自由になってしまった老女の肉体そのものが、何もない場所に暴力をつくり出しているともいえるのかもしれません。

彼女にとって、ただお風呂に入ること、ただ夫の墓参りに出かけて行くだけのこと、が死と隣り合わせのサバイバルみたいに、危険な行動になるのです。

『解決策』でも、やはり肉体のもたらす苦痛が一つのテーマになっています。

肉体が人間の自由や才能の開花を邪魔だてする厄介な存在として擬人化され、主人公の男は自ら望んで身体と頭部を切り離します。

荒唐無稽でシュール。自分で自分の首を切り落とすなど、かなり残酷な内容ではあるのですが、擬人化されたねずみやゴミバケツなんかも出てきて(宮沢賢治とかアンデルセン童話みたいで)、少しほっとしました。

男が迎える悲惨な結末の中に、生物の悲哀みたいなものが感じられて、ある視点から見たら実に滑稽な話でもあるのですが、どうしても笑えませんでした。