ふたご

☆直木賞候補作品☆

『ふたご』

藤崎彩織(著)

(文藝春秋)

 

 

 

第158回直木賞の候補作になった本作は、受賞こそ逃しましたが、人気バンド”SEKAI NO OWARI”Saoriさんの、作家としてのデビュー作として話題になりました。

友達をつくることが苦手で、いつも一人ぼっちだった少女夏子と、個性的な少年月島との、友情とも恋愛ともつかない奇妙な関係が描かれています。

題名の”ふたご”というのは、双子のようにどこか似た者同士である二人の関係性からきているようです。

月島に惹かれていく夏子と、その夏子の心をなんとなく知っているようなのに、彼女を振り回しつづける月島。この関係性の奇妙さ、純粋さ、危うさがきちんと描かれていて、それけでも、すばらしい内容であると思います。

それに加えて、あるバンド結成の物語にもなっていて、非常に展開としても面白かったです。

内容からして、実体験を元に書かれているのかな、という憶測もあるかと思いますが、そうした部分を差し引いても、十分に価値のある作品だろうと思います。

私が本作を読んで、何よりも惹かれたのは、作者である藤崎彩織さんの誠実さでした。

小説に対する、言葉に対する、誠実な姿勢が、5年の月日を費やしてはじめた書いたというこの長編小説を、素晴らしい作品に仕上げたと思います。

小説だから、もちろんすべて事実だけを書いているというわけではないでしょうし、そんな必要もありません。

けれど、その小説の中でだけの真実に誠実であることは、ものを書く上で、なによりも大切な資質だろうと思います。

そして、この『ふたご』という小説には、その誠実さがある。

それだけで、私はこの作品と、この作品を書いた藤崎彩織さんという人が好きになりました。

これからも、たくさん小説を書いていかれることを、期待しています。