群像 2018年 02 月号 [雑誌]

『奥の細道・前立腺』

四元康祐(著)

(『群像』2018年2月号に掲載)

 

 

 

ドイツ在住の語り手は、友人らと熊野に出かけた。

ぜひ日本の巡礼路を歩いてみたいという友人ルイスに頼まれてのことだったが、思いのほか険しい熊野路の旅で膝に痛みを覚えた彼は、ドイツに帰国後、かかりつけの医者に診てもらうことに。

ついでに行った血液検査から、やがて前立腺の癌が見つかることになる。

散文と詩が心地よく溶け合っている、ちょっと面白い小説でした。

内容的には私小説で、語り手のどこか飄々とした人柄がにじみ出てくる文体は、それだけで世界を構築してしまっているという感じがしました。

前立腺癌を患うことで、死と直面する語り手なのですが、悲壮感はあまりなくて、むしろ淡々と受け入れているようにみえます。

そこにはある種の達観のような、哀愁のような、不思議な美しい感覚があって、散文だけでは表現しがたい、されど詩という形態だけでも掴みそこなう、そんな曖昧で繊細なものを、さらりと奏でだしている、という感じ。

何気ない言葉の節々に、宇宙だったり死生観だったり、いろんなことを連想させてくれる広がりがあって、滋味豊かな作品でした。

題名からも想像できる通り、確かに下ネタ的な内容でもあるのですが、これだけ大胆にそのテーマを扱っていて、下品な感じがないというのは、すごいことだとも思いました。