新潮 2018年 02 月号

『SINSIN AND THE MOUSE』

吉本ばなな(著)

(『新潮』2018年2月号に掲載)

 

 

 

両親の離婚後、すっと母親と二人で暮らしてきた「」。

だが、母親が長患いの末に亡くなる。

喪失感の中、暗い気持ちで過ごしていた「私」は、友人のマサミチに誘われて、台湾に旅行に行くことにする。

旅先の台北で紹介されたシンシン(田川真吾)との出会いが、「私」の気持ちを変えていく。

吉本ばななさんの作品は、久しぶりに読んだのですが、この人の文章は、本当に年をとらない。いつ読んでも、瑞々しい、そう感じました。

瑞々しいというのは、心の有り様そのままを、きゅっと掴んで取り出してきて、鮮やかな鮮度のまま差し出してきてくれる、そんな感覚なのです。20年ほど前に読んだ『キッチン』や『TUGUMI』から、それは全く色あせてない。尚且つ、深さも加わっている。

特に、本作は身近な人間(愛する者)の「死」を扱っていて、それを抱えた上でどうその先の人生を生きるのか、という誰もが直面する重たいテーマが題材になっていて、生きにくい人生を生きている人たちへのメーッセージも込められているのかな、と感じます。

読んでいると温かくて大きくて優しいものに、そっと包み込まれていくような気がして、そういう大きな宇宙の中で自分も生きているんだな、そしていつか死ぬんだな、と実感しました。