文學界2018年2月号

《短篇》

「ヌートリア」

三木卓(著)

(『文學界』2018年2月号に掲載)

 

 

 

本作は、『文學界』2月号に掲載された、短篇です。

歩行器を使わないと歩けず、無自覚のうちに骨折してしまうほど体の弱ってきた高齢の語り手と、その娘との掛け合いが面白い作品でした。

語り手は作者本人なのかな、と思うのですが、肉体的にかなり滅入ってしまうような状態にあるように読めました。

にもかかわらず、作品からは飄々とした明るさだけが伝わってきて、想像癖のある娘が語る、京都の加茂川のほとりで暮らす、「本当の父親」である(と、娘は主張している)、ヌートリアの存在が気になります。

そう言えば、小山田浩子さんの『工場』にも、”灰色ヌートリア”なる生き物が出ていましたが、ヌートリアというのは、本当に存在するみたいです。

南アメリカ原産の、ネズミ目ヌートリア科に属する哺乳類の一種。写真で見ると、ビーバーみたいな生き物です。

娘によると、この生き物が、毎晩コップ酒を飲んだり、時に新幹線に乗ったり、暖房つきのアパートに移り住む願望を持ちつつ、彼女の預金通帳のお金を狙っていたりするんだそうです。想像しただけで、笑ってしまいました。