盤上の向日葵

2018年本屋大賞ノミネート作品

『盤上の向日葵』

柚月裕子(著)

(中央公論新社)

 

 

埼玉県の天木山の山中で、白骨死体が見つかった。

遺体は、殺されてから埋められた可能性がある。

不可解な点は、遺体と共に見つかった遺留品だった。

それは、将棋の駒。

およそ六百万円の市場価値があるとされる、初代菊水月作、錦旗島黄楊根杢盛り上げ駒

この世に七組しかないとされる、名駒である。

 

最近は、羽生善治さんが国民栄誉賞を授与されたり、藤井聡太さんの活躍があったりで、なにかと注目されている将棋界ですが、その影響もあってか、非常に面白く読みました。

といっても、私自身はそれほど将棋に興味のある方では、本来ないのです。それでも引き込まれたのは、やはり物語展開の上手さだったと思います。

異例の経歴を持つ天才棋士の壮絶な人生。一方で、事件を追いかける捜査陣の中にも、一度は奨励会に身を置きながらも夢破れて棋界を去った人物がいて、将棋の世界の光と影、魔法のような魅力と、同時に恐ろしさ、壮絶さ、が垣間見れて、興味深かったです。

不可思議な白骨死体の謎を追いかける刑事側の動きを追いかけるだけでも、楽しめる内容になっていて、そこに天才棋士上条に視点を置いたパーツが交錯していて、将棋に魅せられた一人の男の人生が、深く繊細に掘り下げられていきます。

謎を解いていくというよりも、人間を理解していく、その結果自ずと謎が解けてくる、という展開だったように思います。

作者の、粘り強さを感じる作品でもありました。