笙野頼子三冠小説集 (河出文庫)

第13回野間文芸新人賞受賞作品

『なにもしてない』

笙野頼子(著)

(『笙野頼子三冠小説集』河出文庫に収録)

 

 

 

接触性湿疹、と診断された手の病気(手首から先がゾンビのようになってしまうというもの)に罹り、その闘病の様子を、”なにもしてない”という自らの生活状況などを自虐的に交えながら、私小説的に描いています。

手の症状がどんどんひどくなっていくのに、なんだかんだと病院に行こうとしない「私」(作者自身と言ってもいいのでしょう)が、読むほどにいじらしく、引き込まれてしまいました。

なにもしてないとはいっても、小説は書いていて、ただ経済的に自立できるだけの収入には、当時なっていなかったというだけのこと。病気と闘いながら、孤独の淵にいて、母親との危うげな関係性にも振り回されながら、部屋に引きこもり、文章を書き続ける日々。

そんな状況なのに、自虐の明るさが作品を照らしていて、どうにもほっこりした笑いがこみ上げてきてしまう。そんな作品でした。

自らの病気のことや日常生活の様々を綴った本作『なにもしてない』は、1991年野間文芸新人賞を受賞したのですが、2014年、やはり自らの病気や日常生活(人生そのもの)を綴った『未闘病記――膠原病、混合性結合組織病」の』で、第67回野間文芸賞を受賞しています。

 

【関連】

『未闘病記――膠原病、混合性結合組織病」の』

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