文學界2018年1月号

《短篇》

『すぐに港へ』

滝口悠生(著)

(『文學界』2018年1月号に掲載)

 

 

友人の結婚式のために妻と共にロンドンを訪れていた「私」は、そのついでにイタリアに住む妻の友人を訪ねていく。

そのイタリアで体験することになった、困難な道行きを描いた短篇。

言葉も通じず、乗車するバスのチケットを買うのもままならないという大変な思いをした道中。その上、もしかするとこのまま死ぬかもしれない、と覚悟を決めるような瞬間もあり、けれども主人公の「彼」は、全てを人生の貴重な一コマとしてきちんと受け入れようとしていて、そこには諦念とは違う覚悟のようなものを感じました。より良く人生を生きていく上での、覚悟みたいな。

16年前の「彼」と、今現在の「彼」と、さらにずっと未来の(生きていれば存在するはずの)「彼」が、心にとどめた記憶を介して繋がっているという感じも、時空を飛び越えた意志の力が感じられて、良かったです。