すばる2018年1月号

『夭折の女子の顔』

沼田真佑(著)

(『すばる』2018年1月号に掲載)

 

 

 

特にいじめられているというわけではないのだが、学校生活に嫌気がさし登校拒否となった中学生の少女、里紗(「ぼく」)

里紗(「ぼく」)のことを持て余した両親は、盛岡に住む叔母(里紗の母親の妹)に、彼女を預けることに。

独身で広告会社に勤務しているという叔母の元に行くと、同棲中の無職の男(笠井さん)がいた。

里紗の両親には、笠井さんのことは隠してある。

叔母が里紗を盛岡に招いたのには、実は叔母なりのある思惑があったらしいのだが……。

第122回文學界新人賞及び第157回芥川賞を受賞した『影裏』の作者、沼田真佑さんの中編小説。

登校拒否の中学生女子と、無職の35歳男、という組み合わせが、なかなかに面白かったと思います。

主人公が女子であるのに、自分のことを「ぼく」と呼んでいるので、気にはなったのですが、語りの部分では「ぼく」と言いながらも、作中の会話では、自分のことをはっきり「わたし」と言っているので、少し妙な感じでした。

おそらくですが、作者は、男性でありながら自分とはだいぶ年の離れた女性ののキャラクターを作り出し、彼女の語りで小説を書き進めるのにあたって、若干の困難があり、これを克服するために、あえて「ぼく」と書いていたのではないかな……などど勝手に想像したりしてみました。(『影裏』ではLGBTが話題になりましたが、本作ではそのような問題が秘められているという印象は受けませんでした)

『影裏』でも評価が高かった、魚釣りをする場面や展開がありましたが、今回は釣りの描写自体よりも物語の素材として登場してくる山女魚の、生き物としての手触りの方が大事だったように感じました。

無職でしかも仕事を探す素振りもなく、同棲相手である叔母に甘え切っている笠井さんと、登校拒否の少女。一般的には社会から落ちこぼれてしまっていると言われざるをえない二人が、妙に生き生きとしていて屈託がないのに対して、真面目に働いて生きている叔母さんの方に焦りや陰りを感じるという、この対比の構図が素晴らしかったと思います。

読んでいた間よりも、読後からじわじわくる作品でした。