すばる2018年1月号

《短篇》

『名を匿う』

津村記久子(著)

(『すばる』2018年1月号に掲載)

 

 

 

2018年1月号の『すばる』では、”対話からはじまる”という特集を組んでいて、8人の作家がそれぞれ1篇ずつ、対話をテーマに短篇を書いています。

津村記久子さんの『名を匿う』は、その中の1篇です。

主人公である「私」に、会社の上司の愚痴や近況を話すとき、登場する人物の名前を明かさずに伝えてくる女友達のお話。

「上司」とか「意地悪な上司」とか「不倫をしている男」など、名前を隠されて語られる人たちの人物像を、「私」は捉えかねます。「私」にとっては、まったく見ず知らずの人間で、女友達の話の中にしか登場しない人たち……の話に、「私」は何となく違和感を覚えていくのですが、やがてある時、真実に辿り着くのです。

謎が解けると、ああそういうことか、と白けた気分になる展開なのですが、人物の名前を(仮名でもなんでもいいので)、特定するかしないかが、聞き手の受け止め方にどういう影響を及ぼすのか、ということを浮き彫りにしています。

これは、小説を書く上でのテクニックの一つでもあるようで、大変面白く読みました。この点を上手く使えはミステリー小説のちょっとした隠し球にもなるでしょうし、実際に本作ではこれを上手く使って、一つの短編小説を仕上げています。

ちょっと不可解な女友達の、内面の闇みたいなものまで見えてくる作品でした。