成功者K

『成功者K』

羽田圭介(著)

(河出書房新社)

 

 

 

30歳で芥川賞を受賞したKは、それまでの不遇だった小説家人生から一転、タレントのようにテレビに出まくる人気者になり、「多大なる成功」をおさめるのだったが……。

本作は、人気お笑い芸人の又吉直樹さんと同時に芥川賞を受賞した羽田圭介さんが、芥川賞作家になった後の自分のことをそのまま書いたのではないか、と思われるような内容の小説です。

ストーリー上、登場させるとややこしかったのか、又吉直樹さんは登場しませんが、ここに書かれているのは、もしかしてあの俳優かな、あの芸人かな、あの小説家かな、と色々憶測してしまうような人物やエピソードなんかも出てきて、楽しめます。(ちなみに私は、個人的に好きな村田沙耶香と思われる小説家Mの登場で、だいぶテンションが上がりました)

題名からしてずいぶんと調子に乗った印象ですが、自分のことを「成功者」と自惚れている、自らの分身のような人物を「K」とし、三人称の視点で描かれています。

三人称だから、登場人物と作家との距離は保証されているはずですが、あまりにもリアルな内容であるために、「K」と羽田圭介という作家の境界線は、自然ぼやけます。

さらに、「K」は、本作と同名の小説を小説の中で書いて発表しており、ますます主人公と作家の関係は混乱します。

しかし、これら一連の流れは、全て意図された巧妙な仕掛けであることは間違いありません。

”自分のことを「成功者」と自惚れているいる自分”を、第三者的立場から俯瞰しつつ露悪的に書きあげることで、過剰なまでの「自意識」が、作品の中でさらし者にされていきます。

前半から中盤にかけて、リアルで詳細だけどやや冗長ではないかな、という印象だったのが、終盤にかけての切り返しで、一気に様相を変えてくるところはさすがだな、と感じます。

ラストにだいぶ疑問符は残りましたが、それもこの作品の面白いところなのかもしれません。