佐渡の三人

『佐渡の三人』

長嶋有(著)

(講談社)

 

 

おばちゃん(祖父の弟の奥さん)が亡くなり、その納骨のために佐渡まで行くことになったのは、引きこもりの弟と、父、そして物書きの「私」。

ユニクロの袋に入れられて渡された「骨」と共に、三人の珍道中がはじまる。

本作は、芥川賞作家である長嶋有さんの、連作長編小説で、納骨を巡り佐渡を旅することになる家族と、その一族周辺の物語です。

 

親戚の「おばちゃん」の納骨をするために、普段は一緒に旅行などすることもない、弟、父、「私」という面子が集まって、佐渡まで行き、無事に納骨を終えて東京に戻ってくるという話(『佐渡の三人』)。

◆上の佐渡行きの後、自分で自分の戒名を(まだ生きているのに)決めてしまい、墓石に彫り込んでまでしまった祖母みつこの話(『戒名』)。

◆今度は伯父(ヨツオ)と共に祖父の納骨にいくことになった「私」の、二度目の佐渡の旅(『スリーナインで大往生』)。

◆一度目の佐渡行きで納骨した「おばちゃん」の夫である大叔父と、自分で自分の戒名を決めて墓に彫り込んでしまっていた祖母みつこ、その二人の「ダブル納骨(?)」で、三度目の佐渡に行く話(『旅人』)。

 

一連の話は繋がっていて、物語は、「私」の一人称語りになっています。

物語り中、『佐渡の三人』という表題作と同じ題名の小説を、語り手であり主要登場人物でもある「私」が実際に仕事として書いたことになっていて、メタフィクション的な構造になっています。

家族の物語と言っても、一人一人が個性的な登場人物ばかりです。

何かしら面白い視点で物事を見ようとするちょっと風変わりな人物たちと、そのユニークな言動を冷静かつ客観的に捉えながらも、自身楽しんでいる「私」の視点との距離感が絶妙で、可笑しさと哀愁と旅情の入り混じった人間劇が味わえます。

シリアスとは一見無縁のような、呑気な一面をみせる弟や父が、束の間、どこの家でもある「家族の事情」的な暗雲をのぞかせることもあり、そこが妙にリアルで、ぐっときました。

また、やはりこれはなんといっても「納骨」ということを一つのテーマにしている物語なのであり、身近な人間が、生者から死者になりゆくという現象に立ち会うということや、やがて自らもその当事者になるのだ、ということの得体のしれない手触り、といったようなものが何気に伝わってきて、読了後も、しばしそのことに思いを馳せていました。