新潮 2017年 10 月号

『草薙の剣 平成篇』

橋本治(著)

(『新潮』2017年10月号掲載)

 

 

 

前回『新潮』2017年9月号に掲載された、『草薙の剣 昭和篇』の続きです。

昭和が終わり平成になって、時代は一見豊かになったかのようですが、高度成長期のような高揚感はなく、バブル崩壊後の不景気の影が、静かに社会を覆っています。

記録映画のように、平成の時代に起きた数々の事件や出来事が振り返られていて、日本を襲った二つの大きな震災にも、当然触れています。

カメラレンズを覗くような距離感で、自分が生きている「日本」という場所を、眺めさせてくれた作品であったな、と思います。

経済的な貧しさより、人々の抱える心の空洞が、より鮮明に描かれていたのが印象的でした。

また、その心の空洞に忍びよる”狂気”の、得体のしれない不気味さと、その不気味ささえ淡々と描かれている客観性、というものも、強く意識されました。

”「自分はなぜこんなところにいるのだろう? 自分のいる、この暗い所はなんなんだろう?」(『草薙の剣 平成篇』より)”

というラストでの凪生の問いかけが、そのまま自分自身の問いかけとなって木霊しました。