文學界2017年9月号

『はんぶんのユウジと』

 壇蜜(著)

(『文學界』2017年9月号掲載)

 

 

親に勧められるまま見合いし、結婚した「私」。

結婚から二ヶ月後に、夫は突然、死んでしまう。

葬儀後、夫の両親の元を訪れると、思いもかけない申し出をされて……。

 

女優でタレントの壇蜜さんが『文學界』で発表した作品です。

以前から、彼女が執筆活動をしていることは知っていましたが、作品として実際に読んだのは、本作が初めてです。

テレビの画面で見るキャラクターとしての壇蜜さんとは切り離して、ここでは純粋に、作品の評価だけをしたいと思います。

 

《感想》

感触としては、とても良かった。

ずいぶんと重たい内容を扱っているのにも関わらず、文体が軽やかで読みやすいという特色があり、終わりまで一気に読めてしまいました。

自虐的なユーモアも加味されているところなど、ゆるいようで隙がないという気がします。

また、主人公の内面が外の世界と接する時、両者の間で生じる微妙な”ズレ”を、実に丁寧に切り抜いて描写しているところなど、繊細だったと思います。

主人公は、両親の期待を受ける存在になれない代わりに、ただ言いなりになって自己を主張しないでおくことを、ひたすら選択してきた存在です。

そんな自分と似たような存在である夫を得て、彼女の人生は、その後も平穏に進んでいきそうでしたが、「夫の突然死」という出来事に遭遇してしまいます。

親の言いなりになり、自分を主張しなければ、全てが上手くいっていた彼女の人生で、はじめて起こったイレギュラーな「事件」だったはずです。

壇蜜さんの、自然でどこか脱力したような文章が、この「事件」の周辺で戸惑う主人公や、両家の親たちの様子をシニカルな視点も絡めながら描きとり、それでもまだ余白を残しているという気配が漂う一作。

これは何気に凄いんじゃないかな、と、残された余白の余韻を味わう中で、そう感じました。