ユリイカ (角川文庫)

第14回三島由紀夫賞受賞作品

『ユリイカ』

青山真治(著)

角川書店

 

 

バスジャック事件で人質となり、生き残った被害者(運転手の沢井、乗客の兄妹直樹)や、関わった刑事(松岡)らの、苦悩と再生を描いた物語。

事件後、沢井は家族の元から姿を消すが、2年後に戻って来て、知り合いの会社で土木関係の仕事に就く。それと時を同じくして、地元では連続殺人事件が起こり、沢井に対する様々な憶測や噂が飛び交う。

そんな中で、沢井はバスジャック事件の生き残りの兄妹(直樹と梢)と共に生活をはじめる。そして、兄弟らと共に、購入した中古バスでの旅を計画する。

この作品は、カンヌ国際映画祭で公式上映され、非常に高い評価を受けた映画『ユリイカ』の監督でもある青山真治さんが、同作品のシナリオを元に小説化したものです。

猟奇的な事件の被害者になることが、人間の精神やその後の人生に大きな負の影響を及ぼすということが、とても克明に描かれていて、舞台になった九州南部の田舎町の暮らしーー偏見や軽薄な好奇心に満ちた周囲の人間たちの無責任な言動に、人の運命が少なからず翻弄されてしまう恐ろしさも、伝わってきました。

個人的には、映画的なものと文学的なものとの違いを考える読書になった気がしています。その意味では、三島由紀夫賞の選考委員(特に、筒井康隆さん、宮本輝さん、高樹のぶ子さん)の意見は、大変興味深かったです。