書店主フィクリーのものがたり

2016年本屋大賞・翻訳小説部門1位作品

『書店主フィクリーのものがたり』

ガブリエル・ゼヴィン(著)

/小尾芙佐(訳)

/早川書房

 

 アリス島に唯一存在する本屋「アイランド・ブックス」の、店主A・J・フィクリーは、最愛の妻(ニック)を事故で亡くして以降も店主として本を売る日々だったが、酒浸りの偏屈者になっていた。

そんな彼に追い打ちをかけるように、大事にしていたエドガー・アラン・ポーの稀覯本『タマレーン』が盗難に遭うという災難に見舞われる。売れば、40万ドル以上にもなると言われていた本だった。人生に活力を失っていた彼は、行く行く店を閉めて隠居した時の資金として、当てにしていたのだが、その目論見は崩された。

そんな失意の彼の元で、また一つ、大きな事件が巻き起こる。

一人の赤ん坊(マヤ、2歳、女の子)が、店内に置き去りにされていて、一緒に残されたエルモ人形の胸にピンでとめられた母親からの手紙があった。そこには、子供の名前と年齢の他に、フィクリーに子供のことを託すという内容のことが書かれていた。

間もなくして、海岸に黒人女性の溺死体が打ち上げられ、マヤの母親だと判明する。

はじめは二の足を踏んだフィクリーだったが、不思議と自分に懐いてくる愛くるしい赤ん坊に心が動き、マヤを養女にすることを決める。

これは、題名にある通り、一人の書店主の物語で、しかも自分が売りたいと思っている本しか仕入れないと心に決めている、ちょっと偏屈な男の物語です。

本を愛する主人公と、彼と関わっていく人々の人生を、ユーモアと愛情を含んだ文章で綴っています。

各章に付されたタイトルは、すべて実在する短編小説のタイトルで、各作品に対するコメントを、フィクリーが娘(マヤ)や、妻(アメリア)に語り掛けるような口調で補足していて、確かに本好きの心をくすぐる趣向になています。

これらの短編(13作品)だけでなく、作中に出てくる幾つかの作品も、本好きならばちょっと気になるところでしょう。

本筋のストーリーはかなり深刻な展開をみせる(特にラストにかけては)のに、どこか淡白に明るく世界が進んでいくので、読後感は爽やかでした。