黄金の庭 (集英社文芸単行本)

『黄金の庭』

 高橋陽子著

(第36回すばる文学賞受賞作品)

(集英社)

 

 とある計算違いから、やむなく無職になってしまった「わたし」と、夫の那津男が引っ越してきたのは、黄金町という町の、古い一軒家だった。

この町では、不思議なことが日常的に起こる。

閻魔様が祀られた寺で元旦の初もうでをしたり、蛇を食べているシャチホコが屋根にいる大きな屋敷があったり、アーちゃんという乱暴者で悪魔みたいな少年が暴れまわっていたり、毎日、定刻にお釈迦様が生まれる公園の池があったり……。

引っ越して間もない正月の二日目、散歩に出かけた「わたし」は、町の広場でアクセサリーを売っている店の男と出会う。

落ち武者のような風貌のその男は、「わたし」に、「顔に凶がでてるよ」と言ってきたかと思うと、二万円のブレスレットを売りつけようとし、挙句の果てに、一緒に仕事をしないかと持ちかけてきた。

名刺をもらうと、男は千寿寛治という名前で、ライフコーディネーターという肩書きであるらしい。

怪しい話だとは思いながらも、仕事を探していた「わたし」は、翌日、再び千寿寛治の元を訪ねてみることに……。

全体的に、明るい色彩的な雰囲気を湛えた作品だと感じました。

作者は、元々、イラストレータの仕事をしていたようで、小説の主人公とも。どこか重なって見えます。

ごく平凡な生活風景の中に、所々で出現してくる「非日常」があって、登場人物の誰もがそれを「日常」の一部(もしくは延長線上にあるもの)であるかのごとく、当たり前にあっさりと受け流していて、書き手もそれを黙認している。

アーちゃんという、神がかったような奇妙な少年が飛び出してきても、またその少年を閻魔様が取り押さえて懲らしめていても、ことが収まってしまうと、そこから何事もなかったかのように物語が平然と流れ、進んでいく。

”この感じはなんだろう?”と、妙に心が落ち着かなくて、ざわざわする感覚がありました。

ただ、少しだけ不満だったのは、ざわざわする小さな展開はそここに散見しているのですが、どれも心を満たしてくれるまでは深まっていない気がしたことです。それぞれの小さな展開が、やがて町の大きな歴史の中に集約されていく過程でも、やや吸引力の弱い印象で、圧倒的な広がり感や、神秘性のようなものにまでは到達出来ていないのではないかという気がしました。

作品の全編を通して、作者の性格を反映させたものなのか、明るく前向きな基調があって、世界を肯定的に捉えようとする姿勢が伺えました。

「とても、おおらかな作品」という印象です。