コンテクスト・オブ・ザ・デッド

『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』

羽田圭介著

(講談社)

 

リアル世界で映画さながらに躍動するゾンビたちと、それに対峙する現代社会の人々の様相を描いた群像劇。

主な登場人物として、10年前に新人賞を受賞してデビューし、かつてはもてはやされたが、現在はすっかり世間から忘れ去られ、死んでるも同然の作家KKと同時受賞でデビューして、寡作ながらも作家としての地位を保つ女流美人作家の桃咲カヲル文芸誌の編集者須賀小説化志望の男、南雲晶など、出版業界に関わっていたり、またそこを目指そうとする人物が多く登場します。

題名にもなっている、「コンテクスト」というのは、「文脈」と訳されることが多いようですが、ここでは、現代社会の人々の意識下を流れる「共通認識」のような意味合いが含まれているようです。

小説の文脈と同じように、社会の中でも主流となる思考(意見、認識)の「流れ」があり、多くの人々がそれに従って生きていて、つまり、たいていの人間が、画一的な思考の中に進んで組み込まれ、自身では何も考えたり主張したりせず、あくまでも集団に同化して、その「流れ」に取り込まれることだけを目指している、という日本社会の現状を風刺しているのです。

そんな世界の中に、ゾンビたちが自然発生的に現れる訳ですが、それが不思議なほど、廃頽した日本の出版業界の現状と重なって読めてしまう。

物語りには、区職員で福祉担当でありながらゾンビ対策にも当たる新垣や、後に”救世主”となるクラスで孤立無援の女子高生、青埼希なども出てきて、ストーリー的には起伏があって、面白かったと思います。(ただし、ベタなゾンビ物を期待していたのなら、かなり裏切られるでしょうが)

ゾンビ映画のパロディ的な作品ですが、創作上の悩み、出版業界の嘆かわしい現状など、作家として、本気で言いたいことを、かなり真剣に作者は書いているのではないでしょうか。

本好きの人間としては、この作品に描かれた出版界の姿が真実とするなら、本当に悲しいし、危機的だと感じました。

本は売れないんじゃなくて、本当にお金を払ってでも読みたいと思う本を書ける小説家を育む土壌が、腐っているのかな、と……。

こういうことを、作家自ら正直に書く人は、たぶんあまりいませんから、何らかのバッシングを受けなければいいな、と心から思います。