蜜蜂と遠雷

『蜜蜂と遠雷』

恩田陸著

(幻冬舎)

(第156回直木賞受賞作品/

         2017年本屋大賞ノミネート作品)

 

今回で6回目となる芳ケ江国際ピアノコンクール。ここで優勝した者は、その後、著名な国際コンクールでも優勝するということが続いて、近年、注目を浴びている。

そこに集う、若きピアノ演奏者たちの、青春群像物語。

 

多くの音楽家を志すコンテスタントたちの中で、エントリーの時点から特別な事情で注目を浴びていた人物がいた。

風間塵、16歳。伝説的な音楽家、ユウジ・フォン=ホフマンの弟子で、養蜂家の息子。正規の音楽教育を受けておらず、自宅にはピアノすらないのに、驚異的な演奏能力を持っている。

ホフマンは既に亡くなっていたが、風間塵は、ホフマンの推薦状を持ってコンクールに臨んでいた。そこには、こう記されていた。

”皆さんに、カザマ・ジンをお贈りする。文字通り、彼は『ギフト』である”

この推薦状の言葉が意味するものは何なのか。

また、ホフマンは亡くなる前、”爆弾をセットしておいたよ”という謎かけのような言葉も残していて、風間塵こそ、ホフマンの爆弾に違いないという憶測もあった。

ホフマンの推薦状に秘められた真の意味とは……?

 

 一方、物語には他にも、重要な登場人物たちがいる。

かつては天才少女として活躍していたが、母親の死をきっかけに音楽の表舞台から遠ざかっていた栄伝亜夜、20歳。

栄伝亜夜の幼なじみで、名門ジュリアード音楽院生のマサル・カルロス・レヴィ・アナトール、19歳。

年齢制限ギリギリで、妻子持ちで会社員(楽器店勤務)の高島明石(28歳)。

 

一次から三次までの予選の後、本選を迎えることになるコンクール。

若者たちは、互いに影響を及ぼし合いながら成長し、それぞれの音楽と向き合って、自らの進むべき道を模索していく。

面白いと思いました。単純に、展開がドラマチックで面白かったです。

でもそれだけでなく、クラシック音楽という日常から離れた特別な世界のことを、非常に分かりやすくかつ深く広く丁寧に伝えてくれていて、しかもまだろっこしくない。要点とうま味だけを上手に抽出して、説明くさくなく気取らずに展開に組み込んでいるので、非常に読みやすかったです。

複数の人物の視点で場面が切り替わるので、そこも退屈しない要因の一つだったかもしれません。

この作品は、「読むと同時に、体感できる小説」でした。

「音楽」という、小説とは違う表現形式である芸術を、分かりやすく美しい日本語に変換して、「音楽を読ませてくれた」んだと思います。

そもそも、いつの時代も人間を魅了してきた「音楽」とは何なのか。じっくり考えてみる機会を与えてくれた、そんな作品でした。