暗幕のゲルニカ

「暗幕のゲルニカ」

原田マハ著

(2017年本屋大賞ノミネート作品)

 

 

1937年に開催されたパリ万博に出品された、パブロ・ピカソの「ゲルニカ」を巡るサスペンス物語。

MoMAでアジア人初のキュレーターとなった瑤子は、幼い日に両親に連れられて行かれた美術館(MoMA)で「ゲルニカ」を見たのがきっかけで、後にピカソの世界に心酔し、ピカソ研究者となる。

彼女は自分の人生を変えた「ゲルニカ」を、MoMAで開催予定の展覧会に展示するために奔走する。

「ゲルニカ」は複雑な過去を持つ作品で、世界大戦時に戦火を逃れる目的でMoMAに預けられ、以後42年間もMoMAで保存されていたが、スペインに返還されている。それを再びニューヨークに呼び戻すことは、非常に困難なことであった。

そんな時、2001年9月11日のテロ事件が起き、瑤子は夫を失う。

2003年、ニューヨークの国連本部で米国務長官がイラクへの武力行使を示唆する内容の演説を行った際、「ゲルニカ」の複製品であるタペストリーに暗幕がかけられいた。

誰が暗幕をかけたかについて思わぬ噂がたち、瑤子に疑いの目が向けられる。

2012年に『楽園のカンヴァス』で、第25回山本周五郎賞を受賞し、本屋大賞で三位になった、原田マハさんの作品。

本作は、第155回直木賞候補にもなりました。

物語りは、ピカソが「ゲルニカ」を作成した大戦下の時代と、21世紀初頭の9.11テロやイラク戦争が起こる時代、二つの時間が交錯します。

ピカソの時代は、愛人ドラ・マール(「泣く女」のモデルでもある)の視点で描かれていて、「ゲルニカ」作成の背景やピカソにまつわるエピソードなどを世界情勢なども織り交ぜながら展開しています。

ニューヨーク近代美術館に勤務した作者自らの経験や知識を生かした作品で、戦争や人間の愚かさに対する批判や、平和への願いが込められているようです。

非常にエンタメ要素の強い作風だな、と、『楽園のカンヴァス』を読んだ時と、同じ印象を持ちました。

知的な内容ですし、人間ドラマもあり、読みやすくて面白いとも思いましたが、欲を言えば、巨匠が描く絵画の世界に、言語として、小説として、もう一歩迫った表現で近づいて欲しかったです。