文学界 2012年 12月号 [雑誌]「隙間」

/守山忍著(第115回文學界新人賞受賞作)

 『文學界』2012年12月号掲載

休暇をとった夫が、妊娠中の妻と共に、妻の実家に帰省する。実家には妻の両親と姉がいる。妻とは障子を隔てた別々の部屋で寝起きすることになった夫が、姉と必要以上に睦まじく戯れる妻の様子を、障子の隙間から覗くようになる。妻は夫に覗かれていることを知っていて、夫も妻が知っていることを知っている。それでも覗くことを止めることができない……。妻と夫の間に姉(夫にとっては義姉)が介在しての近親相姦的な三角関係が描かれていて、妙にエロチックな作品です。

作風や内容から、谷崎潤一郎の「卍」や「鍵」が引き合いに出され、ただしそこまでの水準ではないとされたようです。

選考委員の吉田修一さんは、「なんだか不潔な小説」としながらも、「この不潔さがイヤではない」としています。不潔であるのは三角関係の性的な変態性に対してというよりも、登場人物たちのつたない関係性にあるようで、

――登場人物それぞれの思い(思い込み)、会話、空間などが、とにかく不潔ったらしくて妙に目が離せなくなる。(文學界』2012年12月号 選評より)

としていて、この不潔感と幼稚性とを結び付けています。

不潔に見えた世界が読んでいくうちに、なんとも幼稚で純粋で好奇心に満ちた世界に見えてくる。(上記同より)

その上でなんと吉田氏は、題名でもある作品中の「隙間」を「妊娠中の女性器」と読み解くことを考えていて、その奥から覗いている者について、なんとも意味深な解釈を与えていました。

確かにそのような読み方も出来なくもない気がします。

一番印象に残っているのはやはり小説のラストで、妻が姉の下着を剥がしてむき出しにしたお尻を思い切りぶった叩くシーンでした。直接は書かなくても、何食わぬ顔で外から帰って来た夫が、庭先からその様子を隠れて覗いていたことは明白です。

このシーンを読むと、やはり吉田氏が指摘したように、不潔さと幼稚さが同居した「性」(もしくは「生」)が確かにそこにあって、それは妙に生命力があって無垢で、そしてとても生々しい気配がするのでした。