文学界 2013年 12月号 [雑誌]「アフリカ鯰」

  /前田隆壱著

(第117回文學界新人賞受賞作)

(『文學界』2013年12月号掲載)

 

大学時代に知り合った「岡」というちょっと変わった友人がいて、何でも大事なことはコインの裏表で決めてしまう。主人公の「私」が、そんな岡と会社を立ち上げると、なんと手掛けたオンラインゲームがヒットして、簡単にお金儲けが出来てしまった。あまりの簡単さに退屈を覚えていると、ある時に岡が、アフリカへ行こうと言いだす……。

これは、若き頃に見知らぬアフリカの地で親友と冒険譚を繰り広けた主人公「私」の、回想録的な小説です。

ストーリー性というものがあまり重視されない傾向を感じる純文学系の新人賞で、珍しくストーリーの面白い作品でした。選考委員の角田光代さんは、”現代版『オン・ザ・ロード』のよう”と評していましたが、そのアフリカ版、といった所でしょうか。世界の捉え方がダイナミックで、男同士の友情が盛り込まれていて、「なぜアフリカなのか?」という問いかけへの答えも聞かされぬまま、気が付いたら主人公も読者も、もうアフリカに連れて去られている。こういう強引さが物語に不思議な躍動感を与えていて、確かに『オン・ザ・ロード』を彷彿とさせます。

何より面白いのは、「アフリカ」という、グローバル化が進んでもまだまだ日本人の私たちには遠く思えるその場所が、実に生き生きと描かれていて、「生きたアフリカ」が感じられることです。風景描写も素晴らしく、そこで展開されていく不穏な事件が緊張感を高めます。「アフリカ鯰」の出し方もよかったです。(岡が現地の黒人少女と漁でこれを釣って来るのですが、それが「私」の夢の中にも出てくるのです。)

ただし、冒頭部分が物語り全体に対して上手く機能していない感じがして、角田光代さんも選評の中でこれを指摘しています。その上で、”もしかしたら作者はもっと書きたかったのではないか”と、言われているのですが、おそらくそうであったような印象が、ラストの唐突過ぎる幕切れからも感じられます。

けれど、これが作品の瑕疵だとしても、それほどマイナスだは思えない気がします。作者の、「書きたいこと」が、原稿用紙からはみ出してもなお広がり続けているという絵が見えてきて、読者としては、「もっと読みたい」と思うばかりです。

純文学という狭いカテゴリーからもはみ出してしまう、これはそういう大きな作品だと感じました。

※一部参考にさせて頂いた、上記角田光代さんのご意見は、『文學界』2013年12月号の選評より抜粋させてもらいました。